映画におけるスプリット・スクリーンの系譜
脇山真治
Genealogy of Split Screen on Motion Picture
WAKIYAMA Shinji
受理 2013/10/11、採用決定 2013/11/13【画像デザイン】
要約
スプリット・スクリーンとはひとつの画面を任意に分割して、複数の映像を組み込んだもので、映画表現の様式のひとつとして考案された。これはマルチ映像の一種でありながらマルチ映像史の中での位置づけは明確でない。本研究は一般的には映画表現のひとつとして認知されているスプリット・スクリーンがどのような系譜をたどってきたか明らかにすることを目的とした。これをとおしてマルチ映像史の一端を整理することができると考える。
このテーマに関する先行研究や調査資料はほとんど存在せず、スプリット・スクリーンを使った作品リストもない。したがって現在入手可能な映画作品を視聴することをとおして史的整理を行った。
スプリット・スクリーンの原初的形態は特撮映画の嚆矢とされるメリエス映画に見ることができる。合成技術も未熟な時期にすでに複数の映像を1画面に焼き込む表現が試みられている。その後はトーキーが登場するまではサイレント映画の表現の試行と拡張としてつかわれてきた。『ナポレオン』(1927)はサイレント末期の「トリプル・エクラン=3面マルチスクリーン」映画として知られるが、ここにもスプリット・スクリーンは使われている。
第二次世界大戦後に開催された万国博覧会は映像展示が主流となる。この状況は劇場映画にも影響を与えた。1960年から1980年代の映画は万国博覧会のマルチ映像の隆盛と呼応するようにスプリット・スクリーンが活用される。『華麗なる賭け』(1968)、『絞殺魔』(1968)などは代表例である。この時期のブライアン・デ・パルマ監督作品の多くにスプリット・スクリーンが挿入される。
1990年代には映画のデジタル化がはじまる。この時期から再びスプリット・スクリーンをつかった映画が増える。画面の分割と複数の素材の取り込みなどの作業はデジタル化によって容易にかつ映像の精度を落とすことなく可能になった。2000年代に入ってからのスプリット・スクリーンはこのデジタル技術が大きく影響していると思われる。この表現を取り入れた作品数も映画発明からの100年間を上回る勢いである。
本研究では、スプリット・スクリーンはサイレント期、万博の映像展示併走期、デジタル期と大きくは3つの時代区分ができることを示した。