設立の趣旨
前文
来るべき21世紀を目前にして、われわれの抱えている問題は尋常でない。 資源、エネルギー、人口、食料等、地球規模の基本問題に加え、他方では人間欲求の限りない高まり、この矛盾に対応する生活設計のあり方は、正に深刻である。これらの問題に直面し、およそデザインに関わり且つその発展向上を志す者は、近未来から未来に向かってその解決策を学術的地から追求すべき時に立ち至っている。
理念
「芸術」と「工学」は人間の営みにおける最もかけ離れた両極に位置すると考えられがちであるが、古来、Artは西欧では芸術を意味すると同時に技術をも意味し、両者は不可分であった。しかし産業革命以後、芸術と技術は時に分裂を生じ、互いに対立する存在ともなり、さらに近年、科学技術の急激な発達により更にこの距離は拡がろうとしている。全てのモノは機能的側面と感情的側面を備えているが、その両者を融合・統合することが重要であり、l9世紀以降のヨーロッパにおけるデザイン運動もこれを目標としていた。日本においても近代以降はこれを受け継いでいるが、とくに高度成長期の経済優先・機能優先の風潮に対し人間性回復、技術の人間化が指向され、これを目的として「芸術工学」が提唱されて九州芸術工科大学が設置されたのである。
九州芸術工科大学に続いて、旭川、神戸、山形に芸術工学を専攻する大学・学部が誕生し、更に各地に新設の動きがある。これは芸術工学が正に社会的に強く要望されていることの顕れである。工学部・芸術学部等におけるデザイン系学科も等しく芸術と工学の統合を指向している。また、デザイン実務界においては、従来個別の分野においてそれぞれ独自に発達してきたデザイン技術を、広く交流・統合することが望まれており、このためにはデザインの理論的・学術的研究の場の確立発展への期待は大きい。
今日、技術は既に日常環境の中に融け込み、高度情報化社会といわれる社会現象もそのひとつで、多様かつ複雑に我々の生活に浸透しているが、このような技 術環境の中で、デザインの課題としては人間がものをとらえたり感じたりする仕組みを明らかにすることが重要である。これはデザインの専門分野の研究のみに限定せず、人間にかかわる関係諸学を総合的にとらえる視点から展開されるであろう。芸術工学はこのように他の学間に対しても開かれた関係に立ち、これら多くの課題に応えていかねばならない。
〔芸術工学会の目的〕
(1)芸術工学についての共通認識を碓立し、その体系化・構造化を図る。
(2)デザインとは何かを追求する。
(3)デザインに関する学術的研究を振興する。
(4)デザインについての情報の交流を組織する。
(5)国内および海外のデザイン関係機関との交流を行う。
ここにデザインについての基礎的学問である「芸術工学」の碓立を目指し、またデザインに関する学術的交流の拠点として、「芸術工学会」を設立する。
(一部省略)
芸術工学会 初代会長
(故)吉武 泰水