2022.03.16
この度、芸術工学会では学会誌69号から82号に掲載された論文等を対象に第5回論文賞の選考を行ってまいりました。会員ならびに理事の投票に始まり、1次選考(1月17日)、2次選考(2月28日)、ならびに理事会(3月11日)を経て、4点を論文賞とし、うち1点を論文賞(最優秀)としましたことを、ここに発表します。
2022年度秋期大会(11月19日を予定)では、授賞式を行い、受賞者の皆さんから研究紹介となるショート・スピーチをお願いしたいと思っております。会員の皆様にも、是非秋期大会にご参加いただければと思いますし、これらを励みとして、ふるって研究論文等の投稿をいただけることを期待しております。
神戸洋家具産業の歴史に関する一連の研究(下表4論文 )
佐野 浩三
神戸開港を機に生まれた神戸洋家具産業の歴史を、発祥期、成長期、変革期、成熟期、そして戦後と辿る産業史的研究である。労作であることもさることながら、単なる事実の確認にとどまらず、時代時代に、その状況に対して、企業や個人の行動、判断、価値観、相互関係といったものがいかに生まれ、それが地域産業の変容にどのように関わってきたのか、立体的に描き出している点が高く評価される。それは筆者の問題意識によるところが大きく、また、結果としてそれは、地域の経済的発展において創意工夫を重んじるジェーン・ジェイコブスなどの見方に対し、創意工夫を生み出すためにその周囲にあるべき諸条件を具体的事例でもって示す形になっており、地域デザインの観点からも高く評価される。
テンションを変化させた平織りのシミュレーション
-平織りにおける経糸と緯糸の伸縮を用いた、三次元構造を形成するアルゴリズムの構築
大内 克哉、小山 明、渡邉 操、小茂田 靖子
平織の経糸と緯糸がつくる立体構造に、双方の伸縮特性から皺が生じるものとして、常微分方程式を用いた数理モデルを作成し、糸のテンションを変えることによってどのような立体形状が生まれるかシミュレーションを行っている。理論的な基礎を探求することによって、今後、実際に経糸と緯糸のテンションを個々に変えることができれば、どのような表現が可能になるかを示しており、新たな技術開発、製品開発に対する提案となっていることは、デザインの基礎学という観点からも高く評価される。
雅楽の旋律型についての研究
-『明治撰定譜』篳篥譜に基づく六調子に特徴的な施律型の抽出
竹下 秋雄
雅楽の旋律は多数の旋律型が組み合わさって構成されているが、先行研究や実践において旋律型の認識は経験的かつ無自覚に行われてきた。当該研究は、最小単位としてセルを設定し、1~8セルタイプで構成される全てのパターンを割り出し、それらを当てはめることによって『明治撰定譜・篳篥譜』に収められた楽曲の調子ごとの特徴的パターンから旋律型を推定している。数理的手法を通して、「篳篥」の特徴的な旋律型を可視化し、雅楽の旋律の中での旋律型の位置づけを明らかにするなど、雅楽研究に新しい視座を与えている点は、旋律型という捉え方の展開可能性も含め、高く評価される。
「受胎告知画における絵画空間の構成」についての一連の研究(下表2論文)
寺門 孝之
14~16世紀の受胎告知画を対象に、それらが象徴的に表現する意味内容を丹念に読み取るとともに、透視図法が生まれ、近代的空間把握がなされるようになった時代の変化に、画家たちがどのように対応したのかその工夫の跡を読み取っている。144点の具体的な資料分析に基づいている点も、芸術工学研究としての評価に値しよう。全体に、説得力のある論述となっている点が高く評価される。
氏名 | 掲載誌 | 論文タイトル |
佐野浩三 | 73 | 神戸洋家具産業の発祥過程と産業化の特徴 〜開港期から明治中期〜 |
73 | 神戸洋家具産業の成長期から変革期までの特徴 ─明治中期から大正期まで | |
74 | 神戸洋家具産業の成熟期の特徴 〜昭和初期から第二次世界大戦前〜 | |
75 | 神戸洋家具産業の復興期から競争期までの特徴 〜 第二次世界大戦後から昭和末期まで 〜 | |
大内 克哉 小山 明 渡邉 操 小茂田 靖子 | 80 | 論文/テンションを変化させた平織りのシミュレーション-平織りにおける経糸と緯糸の伸縮を用いた、三次元構造を形成するアルゴリズムの構築 |
竹下 秋雄 | 80 | 雅楽の旋律型についての研究 ─『明治撰定譜』篳篥譜に基づく六調子に特徴的な施律型の抽出 |
寺門 孝之 | 69 | 14~15世紀のトスカーナの画家達による受胎告知画における絵画空間の構成についての研究 |
70 | 14~16 世紀のイタリア受胎告知画における天使の飛翔表現から見る絵画空間の変容についての研究 ー天使と大地との「あいだ」ー |
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