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論文/扇絵の描画特性と再現扇を用いた復元的考察

扇絵の描画特性と再現扇を用いた復元的考察

「写楽扇面」と「源氏物語絵扇面」を例に

阿部富士子

A Study of the Unique Characteristics of Ougi-e Drawing Techniques, as Highlighted by Restoration Processes : Through Examples of Sharaku Ougi-e and Genji Monogatari Ougi-e
Fujiko Abe
(受付:2020/2/06 採用:2020/2/22 )

要約

「扇絵」は扇にするために扇面に描かれた絵である。しかし扇はその形態ゆえに傷みやすく、経年劣化した過去の扇は、保存修復の為、しばしば扇骨を抜かれ平らに表装されている。そしてそれらの扇絵が調査される際は、その平面になった状態のままで研究が続けられている。しかし扇絵を正しく解釈するには、元の姿を推定することが重要と考え、ここで元の扇を復元的に制作したものを「再現扇」と呼び、「扇絵」の理解の為の手段として提案した。
 「再現扇」の制作には、推定が必要であり、1.折面と扇骨の位置関係、2.折目線と折面の状態、3.扇面比に伴う歪みの変化、などの扇そのものの物的・工作的特性と、4.扇絵自体の描画特性、の4項目を手掛かりとした。またそれらに加え過去の扇の計測数値や、江戸時代の絵師が描いた現存する扇の描画例も推定の参考にした。
 次に先行研究から、「写楽扇面」の調査分析、及び「源氏物語絵扇面」の構図分析の二事例を取り上げた。それらに対し、具体的に「再現扇」を作成することによって従来とは異なる観点からの解釈を行った。
 結果、①写楽扇面は、折目の存在からそれぞれ異なる履歴を想定した二説があったが、再現扇の作成を通じて新たな履歴が想定された。そしてその立体となった扇からは平面とは異なり登場人物の視線が自然と向き合う動きのある歌舞伎の一場面を感じさせるものとなった。また調査対象となった、同じく写楽作とされる「老人図」の扇とも類似する扇の形態を妥当と考えるに至った。②源氏物語絵扇面は室町時代の作である。扇絵に描かれた不自然に見える柱や床の歪みを矩形に変換することで構図解明が追求されてきたが、矩形の再現図では歪みは解消できていなかった。それに対し「再現扇」からは「歪み」の不自然さは感じられず、凹凸を生かした奥行きのある構図となった。源氏絵を得意とした土佐派は、当時より、扇絵の描画特性を備えた固有の描画法を確立していたのではないかと考えさせる結果となった。



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Last-modified: 2020-04-10 (金) 10:59:28